「ただいま〜……あれ、……?」
「っく…あ、リュカ…」
「ど、どうしたの〜」
「な、なんでも…ないの…」
「でもでも…目、赤い……泣いて、る……?」
おろおろしながら泣いているあたしの頭を撫でつつ、袖口で零れた涙をぬぐってくれる。
「大変、大変〜……お医者さん……いる?…それとも〜…寝る?」
「違っ、違うの…リュカ」
手を引いて部屋へ向かおうとするリュカを止め、今まで自分の前にあったものを指差す。
「あれを切っていただけだから」
「え〜っと……玉ねぎ〜?」
「うん」
まな板の上でみじん切りにされかけている玉ねぎを見て、リュカは不思議そうに首を傾げた。
「でも〜…今までも〜何度か切ってたけど……こんなに泣いてないよ〜?」
「今日はちょっと切り方を変えたから」
今日はリュカにハンバーグを作ってあげたくて、玉ねぎをみじん切りにしていた。
時間があれば冷蔵庫に入れておいたんだけど、掃除に時間がかかってそれが出来なかった。
魔界の玉ねぎだったら大丈夫かな…なんて思ったけど、やっぱり玉ねぎもどきでも玉ねぎだったのね。
でも、リュカはこの涙が出るのは玉ねぎの性質とは思わなかったらしい。
「わかった、わかったよ〜」
「?」
「これ〜……新鮮じゃないから……、涙出ちゃったんだよ〜」
そういうと明日の売り物の一部であろう袋の中から、あるものを取り出してあたしの前に差し出した。
「はい。これなら平気〜……採りたて、新鮮〜……」
「っ!!!」
至近距離にあるのは玉ねぎから根っこ…のようなものが、じたばた動いている玉ねぎらしきもの。
人間界に玉ねぎに似たものは、こっちでも形は似ているけれど色々種類がある。
細かく分けると色々あるけど、大まかには動くのと動かないの…がある。
リュカは動いているものは新鮮だっていうけど、や、やっぱりあたしは動かない野菜がいい!
「〜…?」
いつまでも受け取らないことに疑問を持ったのか、心配そうに顔を覗きこむリュカになんとか玉ねぎを渡されないよう必死で断る。
「だ、だ、大丈夫!涙が出るのが普通だから!」
「…普通?」
「そう、普通!!」
「ん〜〜〜」
「人間はね、これをこんな風に切る時には泣いちゃうのが普通なのっ!」
嘘ではない、はず……多分。
「本当に、本当に〜…?」
「うん、本当に大丈夫」
「絶対〜…?」
「うん、絶対大丈夫だから、ね?」
「うん……わかった〜…」
何度も同じ会話を繰り返し、ようやく納得してくれたリュカは動く玉ねぎを元の場所へ戻してくれた。
「それじゃあ、すぐにお夕飯作るから、もう少し待っていてね」
「それは〜……いくらでも、待つけど〜……」
「けど?」
「君が…泣くのは……嫌だよ…」
まだうっすら残っていたのか、涙の痕をリュカが唇で拭ってくれた。
「涙は〜…痛い、証拠だよぉ〜…」
「リュカ…」
「おいしいご飯は、大好き。……でも〜…が泣くなら……ご飯いらない〜」
ぎゅ〜〜っと息が詰まるほど抱きしめられて、心配をかけて申し訳ない…と思いながらも、そんな風に思ってくれるリュカの気持ちが嬉しい。
「大丈夫……痛くないよ」
「本当?本当〜?」
「うん。だからお料理する間、離れて待っていてね」
残りの玉ねぎを切る間、そばにいたらリュカまで泣かせちゃいそうだもん。
そう思って抱きしめてくれていたリュカの背をぽんぽんと叩いてから彼から離れ、再び玉ねぎを切りはじめた。
「あの、リュカ?」
「ん〜…?」
「離れてって、言ったよね?」
「ん〜…うん…」
こくりと頷いてくれるリュカの頭は、あたしの肩の上にある。
つまり、背後からあたしを抱きしめた状態で肩口から玉ねぎを切る様子を眺めているのだ。
これじゃあ、離れてって言った意味がない。
「もしかしてお腹空きすぎた?」
「ん〜…お腹は〜…空いてるけど…今は、が〜……ひとりで泣かないように……一緒にいる〜」
「…え?」
「こうしてれば、泣くのも一緒でしょ〜?」
リュカの方を振り返れば、いつものように微笑んでいるけれど…その目元は玉ねぎのせいか、少し濡れている。
「…リュカ」
「うぅ〜〜…でもぉ…これ、少し…痛いよぉ〜?、これ……普通なの〜?」
悪魔で大きな身体をしてるのに…こんな小さな玉ねぎで泣かされちゃってる。
そんなリュカが手の甲でごしごし目を擦る姿を見ていたら、自然と顔が笑って身体が動いた。
包丁を置いてくるりと身体を反転させると、リュカの首に両手を回して…さっき、リュカがしてくれたように目元の涙を拭うようそっとキスをする。
「すぐ、終わらせて痛いのなくすね」
「うん……おねがい〜…」
泣き笑いのような表情をしているリュカが愛しくて、今度は唇にキスをする。
すると、リュカの顔が不思議そうな顔に変わった。
「どうしたの?」
「んっと……えーっと……ね」
「うん」
「のキス〜…いつもは、甘いのに…今日は、違う〜…」
「リュカの涙の味、かな」
「僕の〜…?」
「そう、リュカの」
「……僕の涙は、甘くないんだね…」
「涙は誰のものも甘くないよ?」
「ううん、違う〜…」
軽く首を振って否定したリュカは、あたしの頬に手を添えて目元にそっと舌を這わせる。
「リュ、リュカ〜!?」
「…ん〜……ほら、ね……の、涙は…甘い〜」
「そんなことないよ!」
「本当だよ……ほら…」
確認させるように深く唇を重ねられ、すがるようにリュカの腕を掴む。
キスを止めた時にはすっかり身体の力が抜けていて、リュカに支えて貰っていないと立っていられなかった。
腰に回された手が意志を持って上に伸びるのを感じて、顔をあげれば…その表情は、さっきまでとは全然違う。
「…君の涙は、まるで花の蜜のように甘いだろ?」
窓の外に輝くのは、青く蒼く輝く…月。
「ねぇ…僕、夕食よりも君が食べたいな……いいでしょ?」
結局、夕飯のメニューだったハンバーグは…翌日の昼食近くなってしまったの。
昼のリュカがお腹が空いたって言ってたけど、自業自得…だよね?
動く玉ねぎを発見できないままのUPとなってしまいました。
確認できたら多少校正する…かも、しれません。
頭を撫で繰り回したくなる大型犬タイプのリュカです(笑)←違う
もう可愛くて可愛くて仕方がありませんっ!
…夜はどうにも手に負えませんが。
リュカの家の台所は私好みのカントリー調でとても可愛いのです(家もだけど)
掃除はマメにしないと大変そうだけど、あそこは調理道具も何もかも揃ってて1番過ごしやすそうだと思う。
…わー話の内容と全く関係ない話だな(笑)